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ミュージカル『イザボー』感想

2024/02/11

楽しむ

t f B! P L
先般、ミュージカル『イザボー』を見てまいりました。
去年から楽しみ半分、怖さ半分で、観劇を楽しみにしていました。
結果、3時間近い公演なのに、体感は1時間半くらい。あっという間すぎでした。

ミュージカル好きの方、またキャストや関係者さんのファンの方で感想を書かれる方はたくさんおられると思います。ここではイザボー歴15年の視点で、自分なりに思ったことを綴ってみようと思います。
ネタバレあり&一部辛口です。
     

はじめに

一つのミュージカル作品としては、音楽もダンスも飽きさせない構成で、人力で回していると噂の三重構造の舞台装置も独特で、ずっとこの世界にいたいー!ってくらい素晴らしかった。

一方、イザボー・ド・バヴィエールの物語としては、全体的にめっちゃくちゃ端折られている!と感じました。始まりも終わりもムード満点なのに、あのエピソードもあの方々も断捨離で、もったいない。
イザボー様にももうちょっとアクションを起こしていただきたかった。
でも、そんな隙1ミリも無いほど凝縮していたことはよく分かります。大河ドラマじゃないしね。
エピソード間を繋ぐバイパス術が上手いんだな。それでちゃんと成立していた。

流れ

歌詞

ミュージカルは、百年戦争の始まりの解説ソングからスタート。
管理人は、イザボーの100年前のフランス王・美男王フィリップ4世と家族にものすごく興味があるので、ここで彼とイングランドに嫁いだ最愛の娘、および後継者と子孫たちのゴタゴタ百年戦争開始ストーリーが歌われていたので喜んだ。
公演パンフレットに載っている歌詞は少し事実と違うところがあり、驚くべきことに、劇中ではきちんと修正されて歌われていた。

勘違いでなければ、

★パンフレット
フィリップ4世には王位を継ぐものはいなかった。残されたのは三人の娘…

★歌唱
フィリップ4世の跡を継いだ者たちは次々に死に絶えた。残されたのは娘たちばかり…

と軌道修正されてなかったか。 
美男王フィリップ4世と家族。
息子たちや弟に囲まれ、最愛の一人娘(左のロングスカート)を隣に座らせて、心なしか誇らしげ。

この上ない至福の時

メインテーマのあと、出会った頃のイザボーとシャルル6世が結ばれて、永遠の愛を誓う場面が、曲の良さも相まって泣いちゃった。

♪このうーえない 至福の時〜

っていう歌。
この場面、ほんの一瞬だったけど大好き。

シャルル6世は騎士道に憧れる夢見がちBOYで、バイエルンのお姫様にずっと会いたかったから。

主演の国王夫妻よりぐっと若い青年・少女のキャストさんを配役しているのが、みずみずしくて良かった。

この人たちが言うのは・・・

国王発狂後、女性は政務に関わらなくていいよとイザボーに言うブルゴーニュ親子。
あなた方は女性版フランドル伯(フィリップ豪胆公には奥様、ジャン無畏公にとってはママ)のパワーでオランダ方面へ大躍進したんだから、女が表に出てくるな〜は言える立場に無いと思いますよ。

もっとも、この作品世界では、ブルゴーニュ一族のフランドル領有はまったくもってどうでもいいことではあります。
でも無畏公が獅子とか羊とか、そっち方面を連想させることを言っていたのは何だ。
ブルゴーニュ一族。
フランドルの叔母様の二重顎と迫力が・・・。

少し改変

1403年シャルル7世誕生。
1404年フィリップ豪胆公死去。
1407年末子フィリップ坊や誕生、続いてオルレアン公暗殺
のところ、作中ではちょっと手を加えていて、フィリップ豪胆公没後にシャルル7世が生まれ、その直後にオルレアン公が暗殺されたみたいになってる。

この改変はきっと意図があってのことのように思えて、どこをどうオペしたのかしら?と、観劇中に頭をひねって考えてしまった。

自己弁護の熱唱

ジャン無畏公の手の者に襲撃されたオルレアン公、無畏公にとどめを刺されて亡くなる。
美しい容姿、優雅な身のこなし、ダンスの才、雄弁・・・
無畏公には無いものをたくさん持っていた男オルレアン公ルイ。
無畏公の自己弁護
は、ミュージカル向けにものすごくシンプルに改変されてはいたけれど、言い分は史実のまんま。本っ当に、そのまんま。

あの「オルレアン公殺害は大正義」っていう、ジャン無畏公とパリ大学の暑苦しいコラボレーションキャンペーンを、本作では無畏公がソロで大絶唱する。
民衆がそうだそうだと騒ぎ始める。
オルレアン公未亡人ヴァレンティーナ・ヴィスコンティ、復讐を叫んで、これまた喚きながら強制退場させられる。
一連の流れが鮮やかすぎる。
ここ書いたとき、制作サイドは絶対、絶好調だったよね。

ここまで煽って盛り上がったから、無畏公のパルチザンが王宮になだれ込むまで描かれたら良かったけど、その後のぐちゃぐちゃ具合はナレーションだった。

無畏公がシャルル6世から王弟殺害の赦免を得る→リエージュで反乱が起きてやむを得ずパリを離れる、の細かいくだりは説明がされてた。

ベリー公に笑う

幽霊部員ベリー公とアルマニャック伯。
確か2、3回くらい、名前だけ出てきたよね。それだけ名前が出てくるなら、あなたたちも出てきなさいよ。
というかイザボー、アルマニャック伯やベリー公とも関係をもったことにされてない?ひぇー。

アルマニャック伯とは当時から内通疑惑(政治的にですよ)の目が向けられていたようだからまぁいいとして、ベリーのおっちゃん!

あれはイザボーの贅沢生活のお師匠様です。
ベリー公叔父様。

力業

シャルル7世の兄王太子二人の相次ぐ死去。
このことも、確かに触れるには触れられていて、歌詞の聞き取りに必死になっているうちに、すごい勢いですっ飛んでいった。

本当にメインキャラクターをあの数名だけで回すのか!
時代が進むに連れて登場人物が退場していく中、力業で最後まで突き進む。

最大のヤマ場のトロワ条約締結、まさかのイングランド王ヘンリー5世のお姿が見えず。
いきなり飛び出してくる末娘カトリーヌ。
あなたは若い頃の私にそっくり、とカトリーヌを抱きしめるイザボー。はい!はい!あなたの石像とカトリーヌの葬式人形は、顔面までクリソツですよ。
ところでこの設定は・・・偶然?

※母娘のお顔並列写真を載せたいけど、あまりにホラー画像のためここでは控えます。
「effigy」+「queen Catherine」検索で出ててきますが、絶対に推奨しません。

トロワ条約

トロワ条約が締結されるとき、イザボーが王様に優しく手を添えてサインさせる。
脅しでも冷笑でもなく、寄り添うこの感じは、解釈一致で好印象でした。

そして「これは決してイザボーが一人で決めたことじゃないけど」というようなナレーションが入る。
これは超大事。イザボーが条約締結に深く関わったことは間違いないけど、ここは抑えておかないと捏造になっちゃうからね。
だったら、だったらなおのこと!
主犯の!ジャン無畏公の息子を!フィリップ善良公を!出しなさーーーい!!!
ヘンリー5世と新ブルゴーニュ公フィリップ善良公(当時はまだ若造)。
映っていないだけで、こちら側にいるに違いありません。
とまあこのように、これらのお話が、絶え間ない歌と踊りとともにガシガシ進むのでした。
面白かった。

小ネタ

端折りすぎとは言いましたが、要所要所は抑えられていて、プラスαで実話に基づく小ネタも散りばめられていました。
・イザボーがブルゴーニュの叔父様の政治の駒としてフランスに来たこと。
・国王兄弟の早駆け競争。
・イザボーが故郷バイエルンで小鳥や花への愛を育んだことを匂わせる歌。
・無畏公夫人がオルレアン公に襲われたというアヤシイ噂話をベースにした軽口。
・人々のオルレアン公に対する悪感情を、無畏公が煽りまくったこと。
・アンジュー公と無畏公の同盟破棄のくだり。
・婚約時のシャルル7世がちゃんとポンテュー伯と呼ばれている。

残念だったところ

さて。
楽ませていただいたところをツッコミまじりに書いてきましたが、最後に唯一、苦言を。

ネガティブなものは見たくないよ、という方は、この見出しは飛ばしてください。




イザボーが夫シャルル6世を、子供たちを、フランスを愛していて守りたかったという方向性は、何より良かった。
この見方は、海外の研究では主流になりつつあるけれど、現在の日本ではまだまったく流通していない、新しい視点じゃないかな。
そんな設定を意欲的に導入しているにも関わらず、本作のイザボーはどうも言ってることと行動が不一致で、旧来のイメージのままに見えました。

愛していたというスタンスを貫くならなおさら、「息子シャルル7世が誰の子か分からない」なんて従来通りの陳腐なことは、イザボーに言わせないであげてほしかった。
史実のイザボーが、狂ってしまった王様の子供を産み続けることにすごーく気を配って努力していたと考えているだけにね(デリケートなお話なので軽々しくは扱えないけど、また記事として書きたい)。

資料をきちんと読んで丁寧に作られた舞台だと感じたし、だからこそ制約ある中での端折りまくりや改変も、ツッコミを入れながら楽しく見ることができた。
だけど、よりによってこの、お話の根幹に関わる部分が引っかかったのはね。

せめてイザボー本人の独白さえなければ、逃げ道もあったのにな。
まさに劇中のシャルル7世と同じく「あなたの口から聞きたくなかった」ですよ。
本当の本当にそこが残念でした。

でもよく考えたら、イザボー四大告訴―「不倫」、「贅沢三昧」、「育児放棄」、「売国」のうち、育児放棄にはまったく触れられてなかったじゃん。主役を張るシャルル7世も、特に何も言ってなかった。これは敢えてでしょう。
育児放棄を消すという素晴らしい意気込みがあるのならば、どうか不倫も消しちゃってというか、一番大切なものは守ってあげてほしい。そうしたところで、ストーリーにはまったく影響ないと思います。

印象に残ったこと

ミュージカル・演劇界隈にまったく疎いため、今作の関係者様全員が初めて知る方々でしたが、皆様素敵で愛着が沸く。
上川一哉さん演じる、チャラ男のオルレアン公ルイ(チャラレアン公)の、辛いときに甘く囁いてくるようなキャラもハマリ役。
かっこいいよりも可愛い系のモテ男で、飄々としていて、登場すると一種の安定感?のようなものを感じました。

劇中、兄王シャルル6世を殺そうとした等の疑惑があり、チャラレアン公自身はそれらを「根も葉もない噂」として否定します。
管理人は、実際のオルレアン公は優しくて腹黒いことは考えられないタイプだったと思っているので(だからこそ無畏公の秘めた悪意も、強襲も、予測できなかった)、本人申告の通り「噂」だと信じたいのですが、そもそも制作側がどっちのスタンスなのかは、見極められなかったな。

フィリップ豪胆公の石井一孝さんはものすごく自信に満ち溢れた方だと思っていましたが、歌声もさすがで凄かった。
豪胆公が歌うと、とたんに歌詞がくっきり浮かび上がるところがありました。

おまけ

公演パンフレットの裏表紙に、イザボーの生んだ12人の子供たちの名前が羅列されていて可愛い。
管理人にとっても、全員が全員、可愛い子供たちです。

そういや、劇中のイザボーの幻想?で、おくるみでぐるぐる巻きにされた赤ちゃんがたくさん出てくるシーンが印象に残った。
これも良い。
中世ヨーロッパの赤ん坊は、頭から爪先まで綿布でカバーされて、みのむし状態が基本。もしここで変にボンネットを被っていたり、髪の毛や手足が見えてたら、がっかりしていたかも。

最後に

生前大好きだったであろう薔薇の花、赤系の服、ワインをモチーフに、宝塚退団後もたくさんの方に慕われる素晴らしい女優さんに、華やかに演じてもらえたのは良かったね、とイザボーに言いたいです。
インタビューとかを見ていて、望海風斗さんはとても思慮深い方だとお見受けしました。

1月半ば東京での開幕から、本日の大阪公演終幕まで、大きな事故も怪我もなく、無事完走となったようで、とてもおめでたいことです。

今回が初お目見えの、日本オリジナルミュージカルとのことでした。
今後も上演される続ける演目になるのなら、歌詞を軌道修正したように、お話の方向性もぜひブラッシュアップをお願いしたいものです。

以上、長い感想を読んでくださってありがとうございました。
公演は一旦は終了となりましたが、イザボー・ド・バヴィエールを探求するという管理人の目標は終わりません。一生続けます。

今後ともよろしくお願いします。

自己紹介

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中世末期の西ヨーロッパ史、特に王家の人々に関心があります。このブログでは、昔から興味のあったフランス王妃イザボー・ド・バヴィエールについてを中心に発信します。

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