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キャサリン・オブ・ヴァロワのお誕生日に寄せて

2023/10/28

家族 文化

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10月27日!
もう日付が変わってしまいましたが、イザボーの六女カトリーヌ(イングランド王ヘンリー5世妃キャサリン)のお誕生日でしたね。

このお誕生日は管理人と一日違いなので、絶対に忘れることはありません。むしろ、ときどき自分の誕生日と間違えることがあるくらい。
そんなときは「キャサリンにお誕生日をジャックされた」とでも言っておきましょう。

1年に一度の機会に、軽〜く、カトリーヌの誕生に思い巡らすことのできる資料を、ご紹介したいと思います。

写本に描かれた、家族の中のカトリーヌ。上の姉たちとは違った髪型をしており、子供として描かれたことと推測できる。この絵についてはまた別途。
arbor genealogica Regum Franciae(フランス王の家系図)
1301年~1400年
フランス国立図書館 所蔵(MS Fr 12148, fol.17)
出典:BnF Gallica

カトリーヌの誕生

カトリーヌは1401年10月27日、サン・ポール宮殿で生まれています。
19世紀のイザボーの先行研究者、オーギュスト・ヴァレ・ド・ヴィリヴィーユ先生のまとめによれば、時間は朝6時説と10時説があるとのこと(sixとdixの類似性に混乱の原因がありそうです。)
シャルル6世とイザボーの第10子、六女、そして末娘としての誕生でした。

イザボーは毎回の出産ごとに、なぜか大量に「木桶」や「釜」や「タライ」や「水差し」を新調します。なんなら、出産じゃなくても「頭を洗う」だの「理髪用」だので、一家は日常的に鍋系を購入していたようです。
いつも買ってるやん、それらは一体いずこへ?と思うのですが、いらなくなったらすぐに溶かしてリサイクルとかしてたんですかね。

ここらへんの事情はよく分かりませんが、ともかくイザボーと従者の皆様が、すごく張り切って赤ちゃんを迎える準備していた様子が、ヤン・グランドー先生の研究論文からうかがえます。

ベビーグッズの購入と清潔

そして、誕生前後には、出産用品のほかにも、職人が手がけたベビーベッドやクッション・カバー類、布おむつや、暖炉の直火を防ぐ衝立(ついたて)なんかも、せっせと納品されてきます。
以下はキャサリン誕生にまつわる購入と支払い。

Pour III aulnes III quartiers d'iraigne de Brucelles de la courte moison de quoy on a fait un petit couvertouer moyen pour le berceul de l'enfant et pour ce, le XIIe jour d'octobre [1401] au pris de XLIIII s. p. l'aune valent VIII l. v. s. p.
 (Arch. nat., KK 42, fol. 8 vº)
3と4分の3オーヌの、子供のゆりかごの小さなカバーを作るためのcourte moisonのブリュッセルのイラーニュ(※)のために、(1401年)10月12日、44スー。1オーヌは8 l. v. s. p ※イラーニュは織物の一種
 

出典:LES ENFANTS DE CHARLES VI P.814

A Guillaume de Jumeaulx pour avoir fait pour le berseul de l'enfant de la royne IIII pommeaulx, redorciez et faiz esmaulx des  armes du roy  et de la royne, redrez de fin or assis dedents le berceul a loccettes d'or, pour tout  et avoir fait bien et proprement ainsi qu'il appartient, le XXII jour d'octobre [1401] LXIII s. р. »
 (Arch. nat., KK 42, fol. 47).
ギヨーム・ド・ジュマーに、王妃の子供のゆりかごに4つの持ち手を作り、まっすぐに立て直し、王と王妃の紋章のエマイユを施し、細かい金箔を貼り直し、assis dedents le berceul a loccettes d'or,(汗)全てのことに、そして立派に、相応しくおこなったことのために、(1401年)10月22日、63スー。

出典:LES ENFANTS DE CHARLES VI P.813 

ひー、なんてボコボコな翻訳、難しい。
業者が赤ちゃんカトリーヌのために頑張って、結果、支払いがなされた、ということだけでも伝われば。

鍋やらタライやらの出産グッズは、「手を洗うため」「(リネン類を)煮沸するため」等々と用途が明記されています。14世紀~15世紀のフランス貴族がとても清潔を好んだことが分かります。
また、イザボーも子供たちも、ちゃんとお風呂に入って身ぎれいにしていました。
グランドー先生の本には、小さいカトリーヌのために“入浴時にかぶるボネ(縁なし帽)”が買われたという記録も紹介されています。

上記は、グランドー先生が王家の会計簿から引っ張ってきたものを、管理人がブログに引っ張ってきているわけですが、もう一つ、備忘録的に記録しておきたいお話が。

女官たちのお仕着せ

ネットサーフィンをしていたとき、「FASHION HISTORY TIMELINE」という英語のサイトを見つけました。ファッション史の学術サイトで、時代ごとの服装の変遷を知ることができます。このサイトの「1400-1409」のページに、イザボーの情報を発見!
In 1401, to celebrate the birth of her daughter Catherine, Isabeau de Bavière, the Queen of France, gave all the ladies of her household a livery of blue wool (Evans 39). Two years later, she gave the women who worked in the royal nursery houppelandes of gray wool (Evans 54).

1401年、娘カトリーヌの誕生を祝うために、フランス王妃イザボー・ド・バヴィエールは、家政の女性たち全員に青いウールの服を贈った (エヴァンス 39)。2 年後、彼女は王家の子供たちのお世話係で働く女性たちに灰色のウールのウプランドを与えた(エヴァンス 54)。

カトリーヌの誕生祝いにあたってイザボーが女官たちに服を大盤振る舞いして、数年後には乳母はじめ養育係たちにお揃いのお仕着せも作らせた、というお話😏
出典の“エヴァンス”というのは、ページ下部に参考文献として書いてあるジョーン・エヴァンスなる先生の著作“Dress in Medieval France”(1952)のようです。

FASHION HISTORY TIMELINE

カトリーヌのその後を想う

後にイングランド王妃となるカトリーヌが「幼少期に母親から良く扱われなかった」というお話も、「いやいや全くそんなことないでしょ」という反論も、カトリーヌ界隈(?)ではよく言われる話ではあります。

管理人的には、カトリーヌはまったく大事に大事に育てられたお姫様であったと思います。
誕生を待ち望まれ、喜ばれ、お風呂専用のお帽子まで買ってもらって、清潔に育てられたんですから。
家族生活の総監督でもあったイザボーの、何よりの愛情表現ではないでしょうか。

そんなカトリーヌ、イングランドで旦那様ヘンリー5世を亡くしたあと、一介のウェールズ騎士オーウェン・テューダーの奥様になります(ただの愛人関係では?などと言ってはいけません。ちゃんとした結婚だったと考えられる理由があるのです)。その後は歴史の表舞台に立つこともなく、隠れ潜むようにひっそりと暮らしました。


生活はフランス王女時代のままとはいかなかったでしょうが、そのことを別段ストレスに感じていなかったらいいな、新しい生活に馴染めていたらいいなと、過ぎ去った昔のことではありますが、ときどき思いを馳せることがあります。

10月27日生まれのカトリーヌのお話でした。

\ヤン・グランドー先生の著作について/

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中世末期の西ヨーロッパ史、特に王家の人々に関心があります。このブログでは、昔から興味のあったフランス王妃イザボー・ド・バヴィエールについてを中心に発信します。

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